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藤原伊織/シリウスの道
[藤原伊織] ブログ村キーワード

本を買うことは大きな楽しみだ。古本もいいがやはり新品が良い。紙のにおい、インクのにおい、つるつるの表紙、てのひらの上の小さな存在感。

わたしは近頃、ほとんど本を読んでいない。長い文章に意識を集中することができないのだ(徐々に集中力は戻りつつあるが)。買った本も、随分長く、いわゆる「積ん読」である。それでも、本を買うという行為はほんとうに魅力的で、大好きである。

   ***

今日も、本屋に行き、何かいまのわたしにも読みやすいものはないだろうかと棚を眺めていたところ、新たに(随分前から発売はしていたようだが)並んでいた藤原伊織さんの本を見つけた。「シリウスの道」。WOWWOWでドラマ化もされたらしい、広告代理店を舞台にしたビジネス・ハードボイルドだとのこと(そんな単語初めて聞いたよ)。

普段ならば全く手に取らない分野の本なのだが、藤原さんの作なので手にとってぱらぱらとめくる。買わずに本屋併設のスタバで読んでしまおうかとも思ったのだが、やはり思い直してレジに向かい、上下二冊を差し出す。

藤原伊織さんが亡くなってから一年以上が経つ
。それでも、家の本棚で、本屋で、その死を実感してやりきれない思いに襲われることがある。59歳での早すぎる死によって、もうこれ以上、藤原さんの文章が新たに世に出ることはないのだと。

なんというか、いつかどこかで会えるような気さえしていたのだ。藤原伊織さんに、である。大学の先輩であり、電通というわたしたちの日々の生活に近い企業に勤めていらしたこともあってだろうか、随分と図々しい考えだとも思うのだが、こうやってわたしが生きてさえいれば、いつか自然のなりゆきで、どこか思わぬところでお会いすることになるんじゃないかと思っていたのだ。馬鹿げていると思われてもしかたのない考えだけれども。
「だれがいってる?」
「みんな」
「……ねえ、きみは事実を尊重するタイプだろ」
「ちがう。わたしは真理を愛好するタイプ」
「それなら愛好するものについちゃ、もうすこし考えたほうがいいんじゃないのかな。真理の居場所はね、みんながいってるところにあった例しがないんだ」
          藤原伊織「ダックスフントのワープ」より

「ヘーゲルははじめてだけどさ、哲学の本読むのって、私、好きなの。哲学っておもしろいよね。こないだは、パスカル読んだ。あんた、パスカル読んだことある?」
「あるかもしれないけど、たぶん途中で放りだしたと思う」
「私、こんなの覚えてるよ。『矛盾は真理を見わけるのにつごうの悪い標識である』。パンセにあったの」
「ふうん。パスカルはなぜそういったんだろう」
「だって、正しいことで矛盾してることもあるしさ。まちがったことで矛盾なしにとおることだってあるじゃない。だから矛盾は、真理をめっけるときの邪魔にしかなんないの。そういうことよ」
「なるほどね」
 おどろくことはないのだろう。現実に、不可解な領域はあるかもしれない。だが、不自然なところはない。(中略)われわれが時間を追って見ることのできるものは変化だけだ。変化に不自然なところはない。だれにも変化は定義できない。
          藤原伊織 「ネズミ焼きの贈りもの」より

これらは、藤原さんの処女作「ダックスフントのワープ」からの引用。晩年(悲しい言葉だ)の、「エンターテイメント色が濃い」と評される作品たちとは趣を異にする、「純文学的」(と呼ばれるだろう)作品が収録されている。

優しくて、ロマンチストで、有能かつどうしようもないダメ人間であった藤原さんの声を、もう少し聞いていたかった。

JUGEMテーマ:読書
| なつき | 読書 | 19:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
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