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日記だとか文学音楽に関してだとか創作物の断片だとかです。
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金子みすず
はちと神さま

   はちはお花のなかに、
   お花はお庭のなかに、
   お庭は土べいのなかに、
   土べいは町のなかに、
   町は日本のなかに、
   日本は世界のなかに、
   世界は神さまのなかに。

   そうして、そうして、神さまは、
   小ちゃなはちのなかに。


大漁 

   朝焼け小焼けだ
   大漁だ
   大羽鰯の
   大漁だ 
    
   浜は祭りの
   ようだけど
   海のなかでは
   何万の
   鰯のとむらい
   するだろう

                        金子みすず


きょうもまたやるべきこともせずぼんやりとしていたら
金子みすずの生涯を松たか子が演じているのが目に入った。テレビ。

その詩がとてもやさしく可愛らしく穏やかにあたりを見つめているものだから
これまでずっと、幸せに長く生きたひとだと思っていたのだけれど
実際は、不遇の末に26歳で自殺したひとだった。

その人生を観た感想はただ一つ。
「そうなってしまっては、もうどうしようもない」この一文に尽きる。

人生には、そこに行ってしまうともう絶対に後戻りができない、という場所がある。多くの作家が語っていることだ。最初は小さな綻び、小さな間違いかもしれない。でもそんな小さな間違いが、気づかぬうちに人生を否応無く浸蝕していく。気づいたときには、もう、戻れない場所に居る。そのドラマでも、みすずという女性の人生が「どうしようもない場所」に向かって徐々に蝕まれて行く様子が描かれていた。

彼女の人生を観ながら、以前友人に連れられて見た無名塾の舞台「セールスマンの死」を思い出した。その劇中で、仲代達也演じるウィリーもまた、全く同じ一文を、全力で私たちに訴えていた。もう、そうなってしまっては、どうしようもないのだ。誰にも、どうにも出来ないのだ。

これまで、松たか子さんは特に好きではなかったのだけれど、この役はとても合っていたように思う。小さいころから優等生で、何かを強要されても、相手の立場を考えて、(悪く言えば)言いなりになってしまう。礼儀正しく、人と争わず、母親、実の弟などのごく一部の人、そして詩作以外では、本音を見せることはない。ダメな夫に対しても一言の文句もいわず、(最終的には離婚を決意するものの)かなり悪い状況に追い詰められるまで、ひたすら耐え忍んで明るく笑っている。

しかし、結婚後、少しずつ状況が悪くなる中で、それでも作られ続ける彼女の笑顔からは、徐々に、彼女の「心」が見て取れなくなっていく。そしてある時期から、その笑顔の中には、「諦め」がはっきりと見えるようになる。「穏やか」とさえ表現できるような諦めを含む笑顔。その変わり行く表情が良かった。松さんも優等生だったのかしらと思わせるような。

ところで、そんなみすずを、彼女を妻に持った夫の立場から見てみるとどうだろうか。このドラマで語られるみすずの夫は、女遊びを繰り返し、その末にみすずに淋病をうつすなど、その行為だけを見れば確かに「どうしようもない人間」だ。しかし、彼の側から見た物語は、今回のドラマの作り方とは全く別のものになるように思う。

つらいときも弱音も吐かずがんばる理想的な妻。詩作や詩の仲間との文通に打ち込み、彼女の詩の世界を理解しない自分に対して本当には心を開かない妻。彼のような弱い人間には、重荷でしかないだろう。「彼は、わるいひとではない」と、みすずも劇中で言っていた。誰も、わるい人ではなかった。でも、どうしようもなかった。
悲劇。

松たか子のみすずは、そのような悲劇性を良くあらわしていたように思う。

なお、金子みすずの自殺の直接の原因は、離婚した夫に娘を連れて行かれることに対する抵抗だったようだ。夫に娘を連れて行かれるくらいなら、自分が死んでも自分の母や義父に育てられる方が娘のためだ。そう思い、娘のために自分の写真を一枚残して死んだ。当時の親権は、無条件で父親側にあったようだ。そんなことも知らなかった。

みすずの人生は、時代が違えばきっとこんな風には終わらなかった筈だ、などと、しばし考える。色々な意味で。
耐え忍ぶことが美徳であった時代。女性には何の権利も与えられていなかった時代。今はそうじゃない。そう、「時代」が違う。

では、「時代」の、一体何かが変わったというのだろうか? 様々に細部を変えながら、常に全てを飲み込みながら無言で進み続ける「時代」とは、一体何なのか?
考えてみる。


追記1
昔、松嶋菜々子をはじめてテレビで見たとき、1時間ずっと松たか子だと思って観ていました。でも最後に流れる出演者名に「松たか子」という文字がなく、そこではじめて「あれ、べ、別人…?」と気づきました。
今ではすぐに区別できます。だって顔がぜんぜん違うもの。

しかしなんで分からなかったんだろう。なぞ。

追記2
私に「セールスマンの死」を勧めてくれた友人は、ずっと「サラリーマンの死」と繰り返していた。

惜しい。
2005.7.25追記

yama88さんが、このエントリーの「みすずを妻に持った夫の立場から物事を観るとどうだろうか?」という切り口に興味を持ってくださり、サイトの中の「金子みすずの一押しサイト集」からこの記事にリンクを貼ってくださっています。
ありがとうございます。

yama88さんのサイトはこちらです。金子みすずに限らず、色々なテーマについて扱われているようです。

http://www.joho-yamaguchi.or.jp/eikobo/c/index.htm
| なつき | - | 01:48 | comments(6) | trackbacks(8) |
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はじめまして、

yama88と申します。
YahooとGoogleから「金子みすず」で検索し、貴サイトを知りました。

実は、最近「みすゞ」さんのホームページを束ねたサイトマップ的なモノがあってもいいのではと思い、
私の感性で金子みすずサイトをセレクトし、「一押しサイトマップ」を立ち上げました。

ナツキさんの、「彼女を妻に持った夫の立場から物事を観るとどうだろうか?」という切り口は、他サイトにはありませんでした。私にはとても新鮮でした。
そこで、今回、勝手にリンクさせて貰いました。
順序が逆になり申し訳ありません。

私のサイトマップURLは、http://www1.ocn.ne.jp/~yama88/b/index.html です。

重ね重ねのお願いで恐縮ですが、よろしければ相互リンクをして頂ければ幸いです。
私のリンク希望URLは、http://www.joho-yamaguchi.or.jp/eikobo/c/index.htm です。

どうぞ、今後とも宜しくお願い申し上げます。
| yama88 | 2005/01/09 4:54 PM |
yama88さん、ありがとうございました。
対応が異常に遅くなりまして申し訳ありません。
今後とも宜しくお願いいたします。

ついでに、どうしようもない部分が多々あったので、一部文章を整えました。まだちょっと整いきれていませんが。
| ナツキ | 2005/07/26 10:05 PM |
はじめまして、しえです。
Googleで金子みすずを検索して、たまたまたどりついてしまいました。


金子みすずの生涯を松たかこが演じたそのドラマ、私も観てました。
彼女の表情がとてもリアルに感じられたのがいまでも印象に残っています。

そして、私も昔(10年余り経ってそうですが)松嶋菜々子と松たかこは
似ていると思ってました・・おなじように見てたヒトがいるなんて、
とちょっとうれしくなってしまいました。ふふ。

ではでは、おじゃましました・・♪
| しえ | 2006/11/29 4:35 PM |
はじめまして、しえさん。
コメントありがとうございます。

金子みすずのドラマ、わたしも松さんの表情が非常に印象に残っています。

そして……仲間ですね! もう10年になりますか。早いものです。(遠い目
| なつき | 2006/12/05 6:43 PM |
金子みすずの詩「私と小鳥と鈴と」がとってもお気に入りの者です。

金子みすずが自殺したことは知っていましたが、26歳で亡くなられていたとは知りませんでした。
ずいぶん短い人生の中で、後の人びとの心に残る作品をたくさん残せて、すごいな、天才だな、と思いました。

金子みすずの詩「私と小鳥と鈴と」をトラックバックします。気が向いたら読んでください。
| ひよこ | 2007/03/01 10:18 AM |
ひよこさん
トラックバックありがとうございます。

わたしも、彼女が26歳で夭折されたことを知ったときは驚きました。今のわたしよりも若い年齢で(私事ですが……)、随分苦労をした人生の中で残した詩だとは思えないほど輝いている作品が多いですよね。天才、だと思います。

| なつき | 2007/03/07 5:45 PM |









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